10歳のマリアのブログ

~~直腸がんで抗がん剤治療中の夫に寄り添う妻の気づき~~

「Stanley J Korsmeyer 博士の肺がんと千羽鶴(No.2 肺がん治療中のStan)」~「夫の直腸がん闘病生活と寄り添う妻(10歳のマリア)」第61回~

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夫の現役時代に投稿したエッセイ集

これまでの記事は、こちら

Stanley J Korsmeyer 博士からの贈り物 前編

Stanley J Korsmeyer 博士からの贈り物 後編

Stanley J Korsmeyer 博士の肺がんと千羽鶴(No.1 肺がんの発病とFellowたちへの告知)

Stanley J Korsmeyer 博士の肺がんと千羽鶴

分子細胞治療 vol.5 no.3 2006 からの引用

このエッセイは、3つに分けてご紹介しています。
No.1 肺がんの発病とFellowたちへの告知
No.2 肺がん治療中のStan
No.3 Fellowたちの千羽鶴の祈り

No.2 肺がん治療中のStan

分子細胞治療 vol.5 no.3 2006 からの引用

肺がん治療中のStan

彼が病気になってから、早く見舞いに行きたいと思っていたが、なかなか機会がなく、ようやく発症後6ヶ月たった5月の連休にボストンに行った。そのときまでには、いろいろなfellow達や秘書から、彼の治療は順調で、研究室で仕事をしていることを聞いていた。

ボストンのローガン国際空港について、すぐにDana-Farberがん研究所(※1)の彼のOfficeに行った。彼は研究室のfellowとdiscussionしていたので、外で待っていた。しばらくすると、彼が出てきて、いつものように、からかうように私に呼びかけた。「Hey, Professor Seto! Welcome! How are you?」。

Officeに入って、彼は現在の自分の様子を5分ほど話し、あとは、すぐ仕事の話を始めた。話の後、「明日、研究室のmeetingがあるから、そこに出ないか?」と聞いてきたので、「Sure!」と答えた。翌日、ラボmeetingのためにStanと一緒に部屋に入っていくと、私をNCI(※2)からのfellowで、Wash U(ワッシユウ:アメリカの研究者たちはSt. LouisのWashington大学をこのように呼ぶ)の研究室の立ち上げに参加してくれたとStanは皆に紹介した。その後、つづけて、Dr. Setoも来てくれたので、今の自分の状態を説明するといって、白いボードに向かって書きながら、自分の状態を説明し始めた。

 

「自分は肺がんのStage IVで発症した。見つかったときには、胸水にがん細胞があり、肝臓、骨に多発性の転移巣があり、脳に3箇所、転移していた。Expression profiling(※3)も行いそのcharacterization(※4)もした。最近、名古屋のグループとアメリカのグループで、EGFリセプターに欠失がある患者にイレッサが有効だと報告されたが、自分の肺がんにはその欠失があり、投与を受けたところ、すばらしく反応した。今は、PETで調べたところ、肝臓と骨の転移は消えたが、まだ脳に小さなスポットが3箇所あり、ガンマナイフ(※5)を使って治療するかどうか、近く主治医と相談する。そういうわけだから、状況はすごくいい。」と話を終えた。

その後、何事もなかったように、いつものようにfellowの二人が研究状況を発表し、活発な意見が戦わされた。

 

【注釈】

Dana-Farber研究所(※1)   ダナ・ファーバー癌研究所。アメリカ国立癌研究所に指定されたアメリカ国立癌研究所指定癌センターの一つである。

NCI(※2) NCI(米国国立がん研究所 National Cancer Institute)は、米国保社会福祉省(HHS, United States Department of Health and Human Services)を構成する11の機関のうちの1つである米国国立衛生研究所(NIH, National Institutes of Health)の一部。1937年の国立がん研究所法により設立された米国政府のがん研究のための主要機関。

Expression profiling(※3) 分子生物学の分野では、遺伝子発現プロファイリングは、細胞機能の全体像を作成するために、一度に数千の遺伝子の活性を測定することです。これらのプロファイルは、たとえば、活発に分裂している細胞を区別したり、細胞が特定の治療にどのように反応するかを示したりすることができます。

characterization(※4) 特徴[特色]づけ

ガンマナイフ(※5) 正式には「ガンマナイフによる定位放射線手術」と呼ばれます。ガンマナイフは、放射線の一種であるガンマ線が、約200個の細い照射口から正確に一点に集中するよう作られた治療機器で、脳腫瘍など主に脳疾患の治療に使用されます。

 

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Stanとは、夫が1988年に帰国してからも親しい関係は続きました。仕事面でも共同研究をしていました。肺がんが発覚した当時も、Stanと共同研究の真っ只中だったそうです。研究の他にも様々な仕事に忙殺されていた夫でしたが、恩師でもあり、重要な共同研究者が、深刻ながんに罹患したとあって、一刻も早くお見舞いに行きたかったのでしょう。

夫は、「Stanley J Korsmeyer 博士からの贈り物 前編」の記事の中で「彼のfellowとして、ついでにassociateとしてKorsmeyer博士のもとで研究した。Stanにとっては、7番目のfellowだったので、まさに彼の研究の黎明期に立ち会ったといえる。」と表現しています。

夫は英語でかなり深いところまでコミュニケーションを取れることもあり、研修生の後、助手の立場であっても、Stanの研究室の立ち上げから頼りにしていただけたようです。そういう事情もあって夫は、尊敬するStanとの間に強い絆があったのだと思います。

Stanが自分自身の状態を、Fellowたちに詳しく説明していく姿、そして話し終わると何事もなかったかのように研究の話に没頭していく様子は、いかにも科学者の集まりのような気がします。科学者は、物事を客観的に、何事も冷静に受けとめることができる印象を受けます。

このエピソードだけを知ると、科学者は恐れや不安、悲しみがないかのように感じてしまいます。けれども、次回で紹介する「千羽鶴」のエピソードの中で、StanやFellowたち、そして夫の心打たれる熱い思いを知ることになりました。

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次回は、次のエッセイへとに続きます。

*『Stanley J Korsmeyer 博士の肺がんと千羽鶴(No.3)』

分子細胞治療 特別寄稿・続編 先端医学社発行